札幌高等裁判所 昭和27年(う)622号 判決
原判決挙示の証拠を綜合すると、北海道証券株式会社専務取締役として被告人は品田彌一郎より三菱製鋼株式会社の株式五百株の買付斡旋方依頼によりその保証金代用として、同人所有の北海道炭鉱汽船株式会社の株式五百株(額面金二万五千円)を受取りまた、島崎清次より帝国繊維株式会社の株式一千株及び三菱製鋼株式会社の株式一千株の買付斡旋方依頼によりその保証金代用として、同人所有の北海道炭鉱汽船株式会社の株式新株一千株(額面金五万円)及び日本水産株式会社の株式六百株(額面金参万五千円)を受取り保管しいたること並にこれらの保管中の株式をいずれも北海道証券株式会社に対する富永熊雄の消費貸借債権担保のために擅に同人に入質したることは認められる。しかし原判決挙示の証拠中原審第九回公判調書中証人蓮本久之助及び同品田彌一郎の供述記載、同第十一回公判調書中証人島崎清次の供述記載によると右株券はいずれも昭和二十四年一月中に被告人において受取つたものであることが認められ原審第十五回公判調書中の証人金井源助の供述記載及び金井源助の検察官に対する供述調書四月二十八日現在所有有価証券と題する書面を綜合すると、本件の北海道炭鉱汽船株式会社の株式千五百株は富永熊雄に入質する前に山田文治に担保として交付し、又本件の日本水産株式会社の株式六百株は富永熊雄に入質する前に近藤某に担保として交付しありたることが認められる。若し右山田文治及び近藤某に担保として交付したのが、品川彌一郎及び島崎清次の承諾その他正当権限の下になされたとすると、本件により初めて業務上横領罪が成立するのであるが若し右山田文治及び近藤某に入質したのが被告人の横領行為だとすると、本件の入質行為はその後の新に生じた領得行為であるか或は前回の入質による不法領得の継続であるか原判決挙示の証拠によつては判明しないのである。この点につきよろしく原審は検察官にその釈明を求め訴因変更の必要があればその変更を命じ更に審理をする必要があつたのであるが、これをなさず原判決が富永熊雄に対する入質を以て直ちに業務上横領と認定したのは事実と証拠に理由のくいちがいあるといわなければならないのでこの点原判決は破棄を免れない。